*初恋*

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 Monopolistic Desires  -2- Monopolistic Desires -4-
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「二次創作」
中編

Monopolistic Desires -3-

 
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ごめんなさい、あとまだ少し続くんです(汗)




Monopolistic Desires -3-




 あの夜のいざこざ以降、琴子は客間で寝起きしていた。
 かれこれ2週間ほどになるだろうか。
 紀子や重樹が心配してくれているが、入江くん疲れてるみたいだから、とよくわけのわからない、理由にもなっていないことを言って誤魔化している。
 まさか、ケンカの内容を言うわけにもいかない。
 言えば紀子が味方してくれるのはわかっているけれど、直樹がそれを愉快に思うはずもないからだ。
 それに、琴子のプライドもあった。妻として信頼されてないかもしれない、なんて言いたくない。
 
「…ふぁあああ~~あ……」

 本来の寝室とは違うシングルベッドの上で目覚めた琴子は、起きたばかりのくせに大欠伸をした。
 原因はわかっている。
 あのケンカ以降、直樹と琴子のシフトは見事にすれ違っていて、家でも病院でも直樹と会えないのだ。
 会えないということは、あの事について二人で解決することもできないということで、琴子のこの意地も張り続けなくてはならなくなる。
 でも、直樹のいないベッドは寂しかった。客間のベッドでは、直樹の温もりは愚か匂いすら感じることができない。
 気づくと直樹に擦り寄って、彼の腕の中で丸まって眠るのが常となっていた琴子にとって、仕事などのやむを得ない事情があるわけでもないのに、直樹の存在から離れて眠ることはできなかった。
 それでも体は疲れているので、ベッドには入る。
 入るけれど、うつらうつらしている間に起床時刻になり、ぼんやりした頭を叱咤しながら出勤する日々が続いていた。
 お陰で酷い寝不足で、食欲すら沸いてこない。
 



 出勤すると、琴子はいつも通りの仕事についた。
 申し送りを聞きながらも、琴子の頭はどこかぼんやりしている。このままではミスをおかしかねない。
 それは自分でもわかっているので、何とかシャキっとしようとするのだけれど、この日はついに限界だったのか、申し送りの最中に琴子はよろめいてしまった。
 隣に立っていた智子が床に落ちる寸前で腕を取ってくれたので大事には至らなかったものの、顔色の悪さは酷いもの。
 さすがの看護師長も、今日の勤務は不可能であると判断せざるを得なかった。
 
「何があったか聞きませんが、体調管理も仕事のうちです。今日はしっかり休むように」
「…はい」

 琴子は小さく頷いた。
 こんな状態の自分がいつまでもナースステーションにいても邪魔なだけなので、琴子はふらふらしながらロッカールームへ戻る。
 患者や付き添いの家族が闊歩する廊下から、職員のみが利用する通路に滑り込んだとき、琴子はまたも体が揺らめくのがわかった。
 目の前は階段である。
 まずい、と思うのに体は動かず、琴子は衝撃を覚悟してぎゅっと目を瞑った。

「琴子ちゃん!」

 だが、今度もまた、寸でのところで誰かが助けてくれたようだ。
 うっすらと目を開けると、西垣が琴子の体を支えてくれていた。

「す、すいません、西垣先生」
「いや、いいんだよ。どうしたんだい、酷い顔色だ」

 琴子を自立させてやりながら、西垣は心底驚いたようにそう問うた。
 元気が取り得、売り文句の一つでもある琴子がこの様子では、驚くなと言うのが無理なのかもしれない。
 琴子はいつものように「えへへ」と笑ったつもりだったけれど、実際は力のない、儚い笑みを浮かべていた。

「ちょっと、寝不足なんです。使い物にならないから、今日は帰って寝なさいって」
「そう……でも、本当に酷い顔色だ。無理しちゃ駄目だよ」
「ありがとうございます」

 西垣の優しい言葉は、同じ病院に勤める同僚として、また医師として何らおかしなものではなかった。
 そうでなくても、程度の差はあれ知り合いであるのなら、この程度の優しい声は誰でもかけるだろう。
 でも、今の琴子には妙に心に沁みた。
 こんな風な優しい言葉を、直樹はかけてくれるだろうか?そう思ったら、切なくて悲しくて、ぽろぽろ涙が零れてくる。
 西垣はぎょっとしたようだったけれど、何も言わずにハンカチを差し出してくれた。

「す、すいません…」

 ぐずぐずと鼻を鳴らし、琴子は西垣のハンカチで涙を拭う。
 
「本当に疲れてるんだね。僕、今そんな、琴子ちゃんを泣かせるようなこと言ってないと思うんだけど」
「……はい」
「ほら、泣かないで。琴子ちゃんには笑顔が一番だよ」
「あ…ありがとうございます」

 ぽんぽんと背中を撫でられ、琴子はようやく、琴子らしい笑みを浮かべることができた。
 それを。
 琴子達の立つ階段の踊り場の上から、直樹が目撃していたことも知らずに。



              *********



 西垣の勧めもあって、琴子はタクシーで帰宅した。
 丁度紀子は夕飯の買い物に出かけているらしく、家にいたのは裕樹だけだった。
 仕事に行ったはずなのに突然帰ってきた琴子に驚いたようだったけれど、その顔色を見て納得したのだろう。
 紀子が心配にならない程度に言っといてやるから寝てろ、と珍しく気遣ってくれた。
 これは恐らく、好美との付き合いによる変化の一つだろう。同じ頃の直樹には全く、一切、欠片も見られなかったわかりやすい人の気遣いが、少しずつではあるができるようになってきていた。
 琴子はありがたくお願いし、とりあえず本来の寝室に戻る。荷物を置いて、ストッキングを足から引っこ抜くようにして脱ぐと、目の前のベッドに吸い寄せられるように琴子は倒れこんだ。
 ここ2週間ほど使っていない自室のベッドからは、琴子の心が求める直樹の存在を感じられた。
 それに安心して、琴子はすうっと大きく息を吸い込む。
 頭では、今日の直樹のシフトを思い出していて客間に行かなきゃと思うのに、手が鉛のように重くて動かせなかった。

(だって……ここ、入江くんのにおいがするんだもん……)

 本当は、生身の彼に抱きしめてほしい。
 直樹が神戸から帰ってきて、それは容易く叶えられる願いのはずなのに、今は彼が神戸にいる時よりも難しい気がした。
 せっかく近くにいられるのに、こんな風に離れていなくてはならないなんて。
 琴子の目に涙が浮かぶ。
 疲れもあって、感情のコントロールが上手くできなくなっているようだ。
 直樹の枕に顔を埋め、琴子はくすんっと鼻を鳴らした。


 どうしてこんな風にケンカをすることになってしまったのか。
 考えれば考えるだけ、琴子は自分は悪くないと思ってしまう。だって、直樹は琴子の気持ちを信じてくれていないのだ。
 あれほど毎日、伝えられる限りで伝えているというのに、どうしてそんな風に思うのか。
 高校一年のあの日から、琴子の中で常に一番なのは直樹なのに。
 直樹が他の誰かを選ぼうとした時だって、それで金之助が自分と共にと言ってくれた時だって、結局は直樹を選んで墓場まで…なんて思うくらいだと、直樹が知らないはずがない。


 琴子はごろりと仰向けになると、着ていたブラウスのボタンを二つほど外し、胸元を覗き込んだ。
 あれほど付いていたキスマークは、今はほとんど消えていた。
 紫の痣に近かったものも、すでにうっすらと赤くなっているところまで消えてきている。
 それだけの時間、直樹に触れてもらっていないということだった。
 それも寂しかった。
 キスマークが単なる直樹の独占欲で、他の男への牽制だとか言うのなら、恥ずかしいけれど全然かまわなかった。
 直樹もそれくらい想ってくれていると喜んだかもしれない。
 なのにどうして、キスマークがなかったら他の男へ気持ちが遷ろうかもしれない、なんて思うのだろう。
 琴子は再びその疑問に戻ってしまい、悲しくなってしまった。
 目を手で覆い、直樹の顔を思い浮かべる。
 琴子の前でだけは優しい表情を見せる彼の記憶は、苦しげなものに変わっていた。
 そんな顔が思い出したいわけじゃない。
 せめて夢の中でくらい、入江くんが抱きしめてくれたらいいのにな―――そんなことを思っているうちに、琴子は本当に夢の世界へと入り込んでいった。





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