*初恋*

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「二次創作」
中編

Monopolistic Desires -2-

 
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つづきです~。






Monopolistic Desires -2-



 
 翌日。
 直樹は散々な気分で出勤していた。
 そんな日に限って外来が少なく、いつもに比べて考える時間が出来てしまうのが腹立たしい。いっそ何も考える時間がないほど忙しければよかったのに、とすら思う。
 午前中に難しい手術が成功したというのに、ちっとも嬉しそうな顔を見せない直樹に恐れをなしたのか、船津ですら遠巻きに見ている始末である。
 むき出しの刃のような直樹は珍しく、指導医である西垣は面白そうに自分の頬に手を当てた。
 仕事に対して常に冷静沈着である直樹がここまで感情を露わにすることはなく、自然、原因はプライベートだと予測できる。
 西垣はニヤニヤしながら、インスタントのコーヒーを入れてやった。自分の分も入れて、自然を装って直樹に差し出す。

「あんまり根を詰めるなよ」
「…ええ」

 無造作に差し出されたプラスチックカップに気づき、直樹がようやく顔を上げた。
 机の縁に腰掛ける西垣を見上げ、コーヒーを受け取る。
 短く礼を言って、一口含んだ。安いブラックの味が口内に広がり、直樹の苦い気持ちを更に苦くした。

「なんか機嫌悪いな、今日」
「そうですか?普通ですよ」

 どこが―――西垣は内心、笑った。
 眉間の皺は今日一番の親友らしく、朝から消えるのを見ていないし、いつもに増して冷淡な視線はもはやツンドラを彷彿とさせる冷たさだ。
 患者に対してはまだソフトになっているようだけれど、今日の入江先生はお疲れだね、なんて声があちこちで聞かれている。それもこれも、直樹がこの病院において有名なせいもあっての噂だけれど、そうやって人の口に上る程度には不機嫌を振りまいているのは間違いない。
 
「琴子ちゃんとケンカでもした?」
「…別に」

 どうやら否定するつもりはないようだ。

「お前は琴子ちゃんに関しては言葉足らずだからな。どうせ勘違いされてケンカにでもなったんだろ?」
「誰もケンカしたとは言っていませんが」
「たまには素直に言えばいいのになぁ。僕の心の辞書、貸してあげられるものなら貸してやりたいよ」
「……遠慮しておきます」

 数々の女性を虜にしてきた、と自負する西垣の、対・女性用の口説き文句辞書。もし実在するなら、船津辺りなら真剣に読むかもしれないが、直樹は何の魅力も感じない。
 半眼で素っ気なく言い切り、コーヒーを呷った。
 ラップトップパソコンを閉じ、立ち上がる。
 西垣はくっくと喉を鳴らし、全身で周囲を威嚇している直樹を見た。
 
「入江?」
「…昼飯、食ってきます」

 颯爽と立ち去る姿はスマートなのに、醸し出す雰囲気がツンドラなので、すれ違う誰もがぎょっとして立ち止って見送る。
 図星を指されて不貞腐れる、というところか―――案外可愛いところもあるじゃないか、などと思いながら。







 直樹が職員食堂に行くと、昼食には若干時間が遅いせいか、広い食堂内は職員が点在しているだけだった。
 これといって食べたいものもなく、日替わり定食を注文する。
 白いトレーを受け取り、適当に座った。
 昨日の琴子とのやり取りを思い出すと、何とも言えない気分だった。
 自分は全く成長してないのだろうか。
 鬱々とそんなことを考えてしまう。違うことを考えればいいのだろうけれど、なまじ頭がいいだけに一字一句違えることなく思い出されてしまって、勝手にため息が零れた。
 あまり食欲がわかないまま、直樹は鯖の味噌煮に箸をつけた。
 そこへ。

「琴子ちゃん、今日も感じ良かったよ」
「あの子、いつでもそうだよな。変に気取ったりしなくてさ」

 そんな会話が聞こえてきた。
 琴子の名前が聞こえたので、直樹は思わず反応してしまう。
 見れば、直樹の座るテーブルから一列挟んだ列のテーブルに、レントゲン技師達が座っていた。
 外科に勤務する琴子なら、日常的に接する病院職員だろう。彼らの口から琴子の名前が出るのは、然程おかしなことではない。
 妻が褒められているのだ。夫なら誇らしく思えど、腹立たしく思う自分はおかしいのかもしれない。
 けれど、どうにも面白くなかった。
 自分以外の人間が、琴子を認めているのが。
 ようやく琴子の持つ本来の良さを理解してくれる人たちが出てきたということは、琴子のここでの頑張りも無駄ではないということだ。
 あれだけ頑張っているのだから、喜んでやらなくちゃ。そう思うのに、直樹の箸は鯖の味噌煮を突くばかり。
 まるで、レントゲン技師達こそを突いてやりたいと言わんばかりだ。


 直樹が神戸から帰ってきて気づいたのは、琴子を慕う人間の多さだった。
 人懐っこく、裏表のない性格である琴子は昔から人に慕われ、影ながら人気のある少女ではあった。けれど琴子本人が直樹を追いかけまくっていたせいで、あまり表に出ることがない人気だった。 
 ところが、直樹が一年離れていた間に、直樹と言う枠を取っ払って見る人が増えたのだろう。
 病院で出会った人にとっては、琴子は最初から「入江琴子」であり「相原琴子」であったことなど知らない。
 どうやら結婚しているらしい、夫は単身赴任で関西の方にいるらしいということは知っていても、見たこともない夫など何の障害にもななかったに違いない。
 それに驚き、嬉しく思うより先に言い知れぬ不安に襲われたのは、直樹が未熟だからだろうか。
 見苦しい嫉妬という感情を鴨狩との一件で知ってから、極力それを琴子にはぶつけず、事前に敵を潰す方向に変えてきたのだけれど。
 ここでは仕事のこともあり、限度があった。それもいけないのだ。
 だからつい、琴子を抱く回数も増えて、キスマークもいつもより5割り増しくらいで増えてしまうのだ。
 

 直樹はついにボロボロになった鯖の味噌煮を諦め、白飯を味噌汁と漬物で流し込むことにした。
 頭に浮かぶのは、昨晩の傷ついた琴子の顔。
 それを紛らわせるかのように水を呷り、直樹は席を立った。
 確かに昼食は腹に収まったはずなのに、あのレントゲン技師達の下らない話のせいで、ちっとも食べた気がしなかった。

 


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