*初恋*

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 拍手お返事(11/9~11/10分) Monopolistic Desires  -1-
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「バカップル」
バカップルライフ

バカップルのマタニティーブルー -後編-

 
 拍手お返事(11/9~11/10分) Monopolistic Desires  -1-
つづきです。







バカップルのマタニティーブルー -後編-





 申し送りも終わり、琴子はようやくその日の勤務を終えた。
 最近では胎動も感じられるようになって、日に日に母親になる実感が沸いてきている。
 その反面、琴子のマタニティーブルーは終わりを見せていなかった。
 
 
 勤務中はまだいい。
 ミスをしないように、またお腹に障らないようにとあちこちアンテナを張って動いているので、余計なことを考えている余裕がないから。
 それでも直樹の姿を見つけたら駆け寄りたくなる気持ちは大きくなるばかりだし、何とか自制できても、寂しくて休憩室で泣いてしまうことも増えた。
 人に見られると心配をかけるし、あらぬ噂の元にもなるのでこそこそと泣いているのだけれど。
 それでも、付き合いの長い桔梗や真里奈、啓太や智子といった面々はそれとなく察しているようだった。
 絶妙なタイミングでお茶に誘ってくれたり、話しかけたりしてくれるからだ。
 その日も、琴子は直樹に会いたい気持ちが膨れ上がって、しょんぼりと肩を落としていた。
 そこへ、桔梗がやってきた。

「あらぁ、琴子も休憩?」
「モトちゅあぁああん゛ん゛~~~」
「げっ…」

 桔梗の声を聞いて気が緩んだのか、ぱっと振り返った琴子の顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃだった。
 思わず桔梗が呻く。

「い゛り゛え゛ぐん゛がぁああああ」
「ああああ、わかったわ、わかったわ!って…いえ、全然ちっともわかんないけど、あんたが泣きたい気分ってことはわかったから!!」

 ずびずびと鼻水を啜る琴子に、桔梗はティッシュをボックスごと差し出した。
 間一髪遅かったので、桔梗の服と琴子の鼻が鼻水で結ばれている。予期せぬ着替えとなりそうだった。
 琴子は桔梗からティッシュボックスを受け取ると、そこから2・3枚を纏めて引き抜き、ずびーっっと盛大に鼻をかんでいる。まさに百年の恋も冷めそうな光景だけれど、幸い見ているのは桔梗だけなので構わない。
 ようやく鼻水から開放された琴子は、うえーん、と再び桔梗に泣きついた。
 あやすように琴子の頭を撫でながら、桔梗は辛抱強く琴子の呼吸が落ち着くのを待った。

「で?入江先生がどうしたっていうの」
「優しいの……」
「…良いことじゃないの」
「本当に優しくて優しくて、あたし嬉しいのに…なのに、寂しいの。もっと入江くんと一緒にいたくて、ぎゅうってしてほしくて、ちゅうしてほしくて……入江くん、前よりもいっぱいそうしてくれるのに、足りないって思っちゃうの。あたし、我侭でしょう?こんなんじゃ、お母さんになれないよね?入江くんだって嫌だよね?」
「………」

 あのクールな直樹が琴子に優しいだけでも驚きだが、求められるままに琴子の言うところの「ぎゅう」だの「ちゅう」をしているのかと思うと、入江直樹ファンクラブ会長としては微妙なものがある。
 嘘みたい、と思いつつも、桔梗は琴子を覗き込んだ。

「別に、我侭ってことはないんじゃないの。アンタ今、妊娠中だし。ほら、習ったでしょ?ホルモンのバランスが変わるって。前なら何でもないこととか不安にないったりするのよ」
「…でもそれじゃあ、入江くんにキスして欲しい理由にならないよ?」
「ええと、それは……まあ、人それぞれってことじゃないのかしら」

 無難に逃げた感のある回答だが、琴子は納得してくれたのだろうか。
 なにやら考え込み、首を傾げている。
 ここでダメ押ししておかねば、自分は休憩らしい休憩と取れないばかりか、琴子の鼻水付きの制服で後半を過ごさなくてはならない。
 桔梗は殊更明るい声を出した。
 
「ともかく!そういう状態ってことは、アンタが着実にお母さんになる準備してるってことよ。あっけらかんと母親になりそうだけど、アンタ実は根が真面目だし。入江先生だって、アンタにはまだ無理って思ったら子ども作らなかっただろうし、赤ちゃんだって宿らなかったわよ」

 憶測ばかりの話になるが、こればかりは仕方ない。
 とりあえずは、目の前の琴子を泣きやませるのが先決なのだ。
 
「あたし…ちゃんとお母さん?」
「なろうとしてるわ。少なくともそう見える。安心なさい」

 軽く背中を叩く。琴子はそれで励まされたのか、うん、と大きく頷いた。
 桔梗はホッと胸を撫で下ろした。
 ちょっと休憩のつもりだったが、とんだ泣き虫に巻き込まれてしまったものだ。まあ、気分転換にはなったけれど。
 もう泣かないのよ、という意味も込め、桔梗は最後にもう一度琴子の頭を撫でた。 

「じゃ、あたし行くわ」
「え?もう?休憩時間は…」
「着替えよ、き・が・え!琴子の鼻水付きじゃあ仕事できないもの」
「あ、そっか。ごめんね」
「気にしないで」

 颯爽と桔梗は休憩室を立ち去る。
 残された琴子は、桔梗のくれた言葉を噛み締め、頑張ろう、と胸に誓った。
 
「応援しててね、赤ちゃん…入江くん」







 数日後。
 風呂から出てきた裕樹は、頭を拭きながらリビングに顔を出した。
 もういい加減見慣れてきた、琴子を抱えた直樹がいる。慣れって恐ろしい、と思う。

「お兄ちゃん、風呂空いたよ」
「ああ」

 最近、琴子が泣くので直樹はリビングで本を読むことが増えた。狭い書斎の椅子で琴子を抱えるよりは、ソファーの上で抱えたほうがマシらしい。 
 そもそも抱えなければいいんじゃないの、と裕樹は思わないでもないけれど、もはやそれが兄夫婦の当然となっているのなら、放置すべきなんだろう。
 いつまで続くのやらと呆れつつ、裕樹は冷蔵庫から水を出した。
 
「ねえ、あたしも一緒に入る!」

 ごふっ!!―――一口含んだ水を、盛大に吐き出す。
 真っ赤になって声のしたほうを見ると、琴子が直樹に抱っこされて満面の笑みを浮かべているところだった。

「へぇ、恥ずかしいんじゃなかったの」
「う……けど、入江くんと一緒にいたいんだもん」

 だらだらと口の端から水を垂らしたまま、裕樹は兄夫婦を呆然と見つめていた。
 琴子はともかく、直樹まで頭がおかしくなったとしか思えない。
 だが直樹は至って冷静で、ふーん、と鼻を鳴らすと琴子を抱えたまま風呂へと歩き出していた。

(納得したんだ…今ので)

 妊娠ってすごい。いや、すごいのは兄なのか琴子なのか最早わからないけれど、人一人変えてしまう力があることは間違いないようだ。
 もし自分がこの先結婚して、こんな風になるのだろうか?
 
(…想像できないな、うん)

 これはやはり、直樹と琴子だから出来ることなんだろう。
 裕樹はそうしみじみ実感したのだった。





       *******






 それから数日の間、直樹と琴子のシフトは尽くすれ違っていた。
 琴子のシフトは大分軽くなってきていて、夜勤はぐっと減っている。そのせいか夜一人でいることも増え、それが裕樹の頭痛の種だった。
 理由は簡単―――琴子が泣くのである。
 一度トイレに起きて廊下に出た際、兄夫婦の部屋から琴子のすすり泣く声が聞こえた時は本当にお化けでも出たかと思い、叫びだしそうになるのを堪えるのが大変だった。
 それは決して珍しいことではない。
 裕樹はその度に兄夫婦の部屋のドアを全開にして、延々と琴子の話を聞いてやるのだ。
(ちなみにドアを全開にするのは、密室に二人っきりになって兄におかしな誤解をされないためだ。)

 曰く。
 こんな自分がお母さんになれるのか不安。
 お母さんってどんな風な人?どんな風になれたら、お母さんになれるの。
 入江くんは、こんなあたしがお母さんになるなんて恥ずかしくないかな。
 赤ちゃん、あたしのことお母さんって思ってくれるかしら。
 …などなど。

 最初の頃は、一つ一つに対して説明したり励ましたりしていたけれど、それがあんまり続くと、もう聞くだけでいいか、と思う。
 実際、琴子は答えを求めているようでもなかった。
 不安な胸の内を吐き出してしまいたいだけなのだろう、と思うこともあったから。
 その日も、泣きながら話して、泣きつかれて寝てしまった琴子に布団をかけてから部屋を出る。
 裕樹は部屋に戻ると携帯を取り、リダイヤル画面を開いた。

「…あ、もしもし。お兄ちゃん?今平気?……うん、そうなんだ」

「今寝たよ。あいつ、子どもみたいだよ、お兄ちゃん」

「いや…いいんだけど。僕も勉強があって起きてたし。うん、うん……じゃあ、また」

 ぷつ、と電話を切る。
 琴子が夜中に泣いていると知ってからから、裕樹と直樹の間で自然と始まった報告の電話だった。
 直樹もまた、心配なのだろう。 
 だからきっと、琴子が寝たら電話で教えてほしい、などと頼むのだ。

「あーあ、早く生まれちゃわないかなぁ」

 案ずるより生むが易し、と言うし。
 後何度、こんな夜を過ごすのだろう。裕樹は苦笑して、携帯電話をベッドに放り投げたのだった。




        **********




 ようやく二人の休日が揃った日、琴子は直樹にべったり張り付いていた。
 直樹も用もないのにフラフラ出歩くタイプではないので、琴子を張り付かせたまま家で過ごしている。
 いつものようにリビングで琴子を横に置き、直樹は難しい医学書を読んでいた。
 最近になって、ようやく琴子は直樹がいればいつもと同じでいられるのか、不器用な手つきで赤ちゃんの靴下を編んでいる。
 網目が一つ飛んだりしているようだが、本人が楽しそうだからこれでいいのだろう。
 琴子が入れてくれたコーヒーを一口飲み、直樹はふいに琴子に問いかけた。
 
「なあ、お前さ。こんな風にしてて疲れないの?」
「どうして?疲れないよ。だって、入江くんのこと大好きだもの!」

 きゅ、と直樹の腕を抱きしめ、琴子は笑った。
 その顔は無邪気で、とても人妻とは思えない。当然、お腹に赤ちゃんがいるなんて嘘のようだった。
 そんなことを言うと、また琴子が変に悩むかもしれないので黙っているが。
 直樹は琴子の腕から自身の腕を引き抜くと、寂しそうな顔をした琴子の肩を抱いた。
 抱き寄せられて、琴子の顔がぱあっと明るくなる。
 
「……子どもがいるってこんな感じかもな」
「うん?何か言った?」
「別に」

 お昼時のバラエティ番組を見ながら、直樹は笑いを噛み殺した。
 母親になる人間を捕まえて子どものいる生活を実感するなんて、なんだか変な話だ。
 でもこれが、自分達夫婦なのだろう。
 ことん、と頭を預けて直樹に全幅の信頼を寄せる琴子に、ちゅ、とキスをする。

「…入江くん?」
「お前を振りほどけないんだから、俺も同じなんだよな」

 もしかしたら、直樹もまた不安だったのかもしれない。
 日に日に大きくなるお腹を抱え、実感することのできる母親と違い、父親は見ているだけ。
 本当に親になれるんだろうかと思うのは、何も琴子だけではないということだ。
 琴子は直樹を見上げ、嬉しそうに目を細めている。細い指が直樹の頬を撫で、琴子の愛らしい唇が「入江くん」と形作った。
 直樹はその唇に、もう一度キスを落とす。
 
「一緒に親になろうな、琴子」
「うん!」

 





 
「……入れない…」

 ガラス戸から見える兄夫婦のラブラブっぷりを前に、裕樹はがっくりと項垂れた。
 赤ちゃんが生まれるまで、あと少し。
 裕樹の苦労が報われるのも、あと少しかかるのだった。



 END



 

ただひたすらラブラブさせてみました。
そしたら、なんか長くなってしまって…さっくり一話完結を目指したはずなんですけども(汗)
リク主さまのイメージから外れてないといいな~と願ってます(^^;
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