*初恋*

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
 メールフォーム
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ   3kaku_s_L.png   スポンサー広告
*Edit   

「二次創作」
短編

「Starting line」

 
 メールフォーム
Starting line




「琴子ちゃぁ~~ん」

 朝食を終え、さあ登校しようという時になって、紀子がパタパタとリビングから出てきた。
 入江と登校したい一心で必死に身支度を整えていた琴子は、はい?と顔を上げる。
 今まさに出ようとしていた直樹も、母親が何を言い出すのかと怪訝そうな顔で振り返っている。
 忘れものだろうか。でも、お弁当はさっきちゃんと鞄に入れたし…と首を傾げる琴子に、紀子はごめんね、と言った。

「今日ね、パパの会社のお付き合いで私も出かけちゃうのよ~。でね、本当なら琴子ちゃんに鍵を渡してあげたいんだけど、まだ出来上がってきていなくて…だからね、お兄ちゃんと帰ってきてちょうだいね」
「え、入江くんと!?」
「ええ。頼んだわよ、お兄ちゃん!意地悪して、琴子ちゃん置いて帰ってきたりしないのよ!」

 ええ、と優しく微笑んだ以降は、直樹に向ってしっかりと言いつけ、紀子はにこにこ笑っている。
 今回はあまり他意はないらしい。
 面倒くさそうに顔を歪めた直樹は、特に応えることなく玄関を出た。
 琴子が慌ててついてくる。

「い、行ってきます!」
「いってらっしゃ~い」

 小さくなる二人の後姿を眺めながら、紀子は満足そうに何度か頷いていた。






 直樹はモテる。
 本人の興味は一切そういう方向に向いていないが、本人がどうであろうと周りは騒ぎ立てている。
 成績に関しては教師までもが浮かれることがあるのだから、生徒たちがその容姿も相まって騒ぎ立てるのは無理もないことだった。
 その中で、堂々とラブレターを渡した琴子は、ある意味強者で。
 受け取ってはもらえなくても、不本意ながら「覚えて」もらえて「相手」をしてもらえるのだから、直樹にとってどういう存在なのか?と噂になるのは当然だった。
 大半の者が興味を持ち、二人の行く末を面白おかしく見守っている中、これまた当然ながら、琴子の成績などを見て「あの程度なら」と小馬鹿にする者も多い。
 今、直樹に手紙を渡した女子もその一人だった。名を、広瀬という。
 彼女の成績は直樹と同じAクラスレベルで、容姿も悪くない。どんなことでも、ある程度卒なくこなせる。
 琴子が手紙を受け取ってもらえなかったことは知っていても、自分ならと夢を抱く程度にはこの告白に自信があった。
 
「これ…もらってくれる?」

 放課後、机に座って日誌を書く直樹にすっとラブレターを差し出す。
 直樹はそれを手に取った。それだけで、彼女の自尊心が満たされていく。琴子の手紙は受け取ってももらえなかった、というのは有名な話だからだ。

「良かった。F組の…相原さんのは受け取らなかったって聞いてたから。ふふ、私は少しは脈ありって思ってもいいかしら?」

 その声に、優越感がにじみ出ていたのは否めない。元々F組というだけで見下しているのだ。
 女としても勝ったとなれば、その満足感たるや並みのものではなかった。
 けれど。
 直樹は差出人を見て、宛先を見て、それから。

「…で?」
 
 何の感慨も湧かない目で、彼女を見上げた。
 ぺらぺらと上下に揺られるだけのラブレターが自分の顔の前に突き返され、彼女は一瞬言葉を失った。
 ラブレターを渡して、で?と返されることは彼女の予測にない。
 琴子と違って受け取ってもらえたのだから当然中身も読んでもらえて――たとえ断られるのだとしても、まさかこんな風な形になるとは思ってもいなかった。

「で?って……」
「お前さぁ、こんな馬鹿なことやってる時間ないんじゃないの?」
「え…」
「興味ない。こういうことにも、お前にも」

 くしゃり。
 小さな音を立てて、ラブレターが握りつぶされる。
 ピンとしていたそれは、今ではただの残骸だ。彼女は茫然とその手紙を見詰めた。
 直樹はそれをゴミ箱に投げ捨てると、日誌で残っていた空欄を埋めて立ち上がる。
 筆記用具を片づけて、教室を出て――戸が閉まる。
 その瞬間まで、直樹がクラスメートでもある彼女のことを振り返ることはなかった。




       ***********




「おっそいなぁ~…入江くん」

 のっぴきならない事情があるとはいえ、直樹と下校できるとなれば琴子にとって悪い話ではない。
 それでも、今日は日直でやることがあるから邪魔するな!ときつく言われてしまえば、A組の教室まで押し掛けるのも躊躇われていた。
 なので、こうしてうす暗くなってきた下駄箱で待っている。
 とん、とん。
 持っていた鞄を、膝で軽く蹴り上げる。ひとつの音が「まだかな」と言っているようだった。
 じんこも理美も金之助も、今日は先に帰ってしまっている。部活の生徒が帰るにはまだ早く、帰宅部の生徒が帰るには遅い時間である今、下駄箱にいるのは琴子くらいのものだった。
 ふいに、琴子が鞄を蹴り上げている音に重なって、誰かが階段を下りてくる音がする。
 琴子はぱっと顔を上げた。

(入江くんの足音!)

 なんでわかるのか、というツッコミをしてはならない…のだろう。多分。
 それまでどこか萎れた花のようだった琴子が、急に生き生きし始める。
 階段を下りて現れたのが予想通り直樹だとわかった瞬間、琴子は駆け出していた。

「入江く~ん!」
「うるさい!廊下を走るな!」

 ぎろっと琴子を睨み、直樹は歩き出す。直樹の後ろをひょこひょことついて歩く琴子に、直樹はちらっと視線をやった。
 
「遅かったね。日直って面倒だもんね」
「……」

 琴子に、今告白されたと言ったらどうするのだろう?
 あの女のように、馬鹿にするのだろうか。いや、それ以前に慌てて…と、そこまで考えたところで、直樹は我に返った。
 馬鹿らしい。
 琴子が慌てようとどうしようと、自分には関係ないことだ。
 疲れてるかな、と思いつつ、直樹は下駄箱を開けた。
 そこに鎮座ましますのは、先ほど教室で握りしめたものとは別のラブレター。
 
「……」

 それに気づいた琴子が、あー!と声を上げる。

「い、いり、入江くん!?それ、それ!!」
「ああ…これが何?」
「ど…どうするの…?」

 直樹の手の中にあるラブレターを見て、琴子が泡を食っている。
 
「いらない。から、捨てる」
「…読まないで?」
「興味ない」
「で、でも…多分、一生懸命書いたんだと思うの。読まないで捨てちゃうのは…」

 おそらく、自分が告白した時の悲惨さを思い出したのだろう。琴子の声が潤む。
 どうして自分に関係ないことでそんな状態になるのかわからず、直樹は器用に片眉を上げた。

「へぇ?いいの?俺がこれ読んで、その気になっても?」
「え!?あ、いや、それはダメっていうか、でもでも…!」

 対照的に、琴子はふにゃりと眉尻を下げる。
 彼女の妄想の中では恋人は自分なのだから、他の女が出てきてほしいはずがない。
 けれど、琴子はこの手紙の主を馬鹿にしたりはしなかった。それが、なぜかホッとする。
 直樹は下駄箱に入っていたラブレターを、先ほど同様握りつぶして、廊下の端に置いてあったごみ箱に放り込んだ。
 琴子が「あ…」と小さな声を出す。あの手紙と差出人に同情したものの、拾いに行かないのは、自分が口出しすることではないという遠慮のせいだった。
 直樹はそんなことにも気付かず、頭の中にしっかりインプットされた手紙の朗読を始める。
 感傷に浸りつつあった琴子も、さすがに現実に引き戻された。

「どうせ一緒だろ。はじめまして、わたしの名前は~」
「きゃあああ!!もう忘れてって言ったじゃない!!」
「俺は一度読んだもんは忘れないとも言っただろ!」

 ぎゃあぎゃあ言い合いをする二人を、せめて詰るくらいしてやろうと追いかけてきた広瀬が盗み見る。
 手紙を受け取らなかったと聞いたのに。
 だから、読んでいないんだと思っていたのに。
 今の話からすると、直樹はしっかり読んだらしい。
 ショックで動けなくなった彼女に、直樹の言葉が突き刺さる。

「ほら、帰るぞ!」
「は~い……って、きゃあ!」
「…お前、3年通ってきて何でいまさらそこでコケるんだ?」
「め、面目ゴザイマセンデス…」

 鈍い音がしたことからして、どうやら琴子が転んだらしい。立ち上がる衣擦れの音と、呆れる直樹の声が重なった。
 見たくないのに、聞きたくないのに、思わず広瀬は隠れていた柱から少しだけ顔を出す。
 下駄箱に片手をついて立ち上がった琴子を、直樹が見下ろしていた。
 ただ、見下ろしているだけだ。けれど、立ち去ることもない。自分の知っている彼なら、関係ないなら誰が目の前で転ぼうと立ち去っているはず。
 琴子が準備が出来るのを待ち、直樹は歩き出した。琴子がその後ろをついていく。
 
「ねえ、おばさんが帰ってくるまで…お願いがあるんだけどぉ」
「…嫌だ」
「まだ言ってないじゃない!」
「どーせ勉強みてくれ~とかだろ。お前の面倒なんて見てられない。俺は忙しい」
「い、いいじゃない!復習だって大事だよ!?」
「俺の復習にお前がついてこれるならな」
「……ケチ」

 話しながら、琴子が直樹の隣に並ぶ。直樹はそれを拒絶しない。
 それを、広瀬は茫然と眺めていた。
 距離が近いわけではない。直樹が積極的なわけではない。ただ、入り込めなかった。
 さっきのことで一言文句を言いたかっただけなのに。その一言が、出てこない。
 随分長いこと、広瀬は下駄箱に立っていた。
 あれだけ小馬鹿にしていた女と、同じスタートラインにすら立てていなかったんだと気付いたのは、図書室帰りの友人に肩を叩かれた時だった。


 END
関連記事

総もくじ 3kaku_s_L.png 【二次創作】
もくじ   3kaku_s_L.png   短編
*Edit ▽CO[8]
Tag List  [ * ]    

~ Comment ~

>hirorin様 

拍手でもコメント、ありがとうございます!
今回お返事するに当たって自分でも読んでみたのですが……な、なんか今よりピュアな感じがしてくすぐったいですね…(笑)
根っこは変わってないはずなのですが(^^;

こちらのお話はブログを始めるに当たって最初に書いたお話なので、なかなか思い入れのある作品でして。
なので、そんな風に言っていただけて嬉しかったです。
特別なんだけど、特別だとは思っていない。二人とも気付いていない。高校生の頃の、そんな距離感が大好きなんですよ~。
ありがとうございました!

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

>おかき様 

はじめまして!このような辺境の地にまで足を運んでくださって、ありがとうございます!
水玉さんのところからいらして下さったのですね!水玉さんのところの作品は本当に素晴らしくて、私もいつも夢中になって水玉ワールドに浸かっております♪
最初にお読みいただいたこちらの作品は、初めて書いただけあってピュアな仕上がりになっております。
段々壊れてくので、おかき様が呆れないといいな…と願ってやみません(^^;
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

>あやみくママ様 

>あやみくママ様

なんと、今日も!ありがとうございました!
あちらのあやつねぇ……本当に、目が曇りガラスになってるようですもんね(^^;
青い入江、なんだかこう、あまずっぱ~い感じがして私も好きです♪本人デレてるのもわかってないから、もう美味しくて美味しくて(笑)!

そういえば、その逆パターンってあんまり見かけないかもしれませんね。どういうシチュになるのかなぁ…。
横になってることが多いので、その時に妄想してみますね!もしネタが浮かびましたら、ぜひぜひ投下を♪

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

>彩様 

>彩様

はじめまして!
この辺境の地まで足をお運びくださり、ありがとうございます!

やっぱり入江くんはこれくらい(夜も)元気でないと♪ですよね(^m^)フフッ
あのクールな入江くんがと思うと、余計にツボなのです。
またネタが浮かべば鍵付も増やしていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします♪

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
  • 【メールフォーム】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。