*初恋*

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
 素直じゃない男 -後- バカップルのお勉強
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ   3kaku_s_L.png   スポンサー広告
*Edit   

「バカップル」
バカップルライフ

バカップルの帰宅

 
 素直じゃない男 -後- バカップルのお勉強
バケツの準備をお願いします(^^;





バカップルの帰宅




 今回の旅行は散々だった。
 琴子の人生において旅行には何度も出かけているものの、この慰安旅行ほど酷かったものはない。
 男湯を覗く女なんて、うら若き乙女につくあだ名ではないだろう。
 救いは、大蛇森の気色悪い裸体画像と頭への衝撃の代わりに得た、直樹との時間だった。
 なんだかんだ言って、直樹と温泉にも入れたのだ。
 部屋も一緒になれたし、プラスマイナスと零というところか。
 だから。
 帰りのバスに乗るために並びながら、そして『男湯さん』なんて呼ばれる度に、浮かれるべきか凹むべきか琴子は迷うのだった。




 *******





 琴子の席の隣は桔梗……のはずだった。
 事前に配布された座席表にもそう明記してある。
 しかし、琴子が行くと、そこには何故か直樹がいた。

「よぉ」
「ど、どうしたの?」
「お前、昨日頭打ったばっかりだろ。大丈夫とは思うけど、一応と思って桔梗に替わってもらったんだよ」

 ほら、と窓際の席を勧められ、琴子は腰を下ろした。
 バス酔いしやすい琴子を知ってのことで、琴子は直樹のこんなさり気ない優しさが大好きだ。
 自然ニコニコしていると、直樹が眉を顰めている。

「ニヤニヤすんな。気持ち悪ぃ」
「ニコニコって言って!」

 そんなやり取りをしていると、他の看護師たちも直樹の存在に気づいて色めき立った。
 だが、なんとなく入りにくい二人の雰囲気に戸惑っているようだ。普段クールと評する以外の言葉が見当たらない直樹が、今はそれとは違うようだと察するのだろう。
 ひそひそ声は聞こえてくるものの、琴子と直樹の話に入り込もうとする者は出なかった。
 

 琴子は座席に座ると、前の座席の背面についたドリンクホルダーに水を置いた。

「ねぇ入江くん、あたしのこと心配してくれたんだよね?」
「…お前が迷惑をかけるであろう人たちのことを、な」
「め、迷惑なんてかけないもん!」
「どーだか」 

 ぷう、と琴子が膨れるのを横目に、直樹は僅かにリクライニングを倒した。
 琴子も倣って少しだけ倒し、入江くん、と声をかける。

「あのね、あのね」
「あのな、あんまくっちゃべってるとホントに吐くぞ?少しは黙ってろよ」

 琴子としては、せっかく直樹と隣り合って座れるのだから一分でも無駄にしたくないのだろう。普段あれだけ喋っておいて、どうしてまだ話すことがあるのか不思議だが。
 琴子は3分ほどは静かにしていたものの、すぐにまた、入江くん、と声をかけた。
 ここまでくると、直樹も諦めモードである。
 ちらりと視線だけやり、先を促した。

「お義母さんたちにお土産買った?」
「いらないだろ、別に」
「えええ?ダメだよ、あたしちゃんと買ったよ」
「ならそれでいいよ。俺たちからってことにすれば」
「…まあ、そういう形もありなんだろうけど」
 
 直樹が思うに、自分が何か買って帰るよりも、琴子が買って帰った方が喜ばれるのは間違いない。
 一体どちらが実の子供なのかと疑いたくなるが、世間一般に囁かれる嫁姑バトルがないだけ幸福なのだろうとも思う。
 直樹は琴子の鞄からはみ出るおまんじゅうの箱を見やり、ため息をついた。1箱ではなく5箱くらいある気がするのだが、どこに配るつもりでいるのだろう。まさか全部平らげるつもりじゃないだろうな?と疑ってしまうのは、寝室に置かれた小さなお菓子箱のせいだ。
 あれだけ食べてよく太らない、と驚くほど、琴子は甘いものが好きだから。
 直樹はあまり好まず……琴子という名前のデザートならいくらでも食べることができるのだけれど。
 と、そんなくだらないことを考えてしまうのは、今朝まで続いた二人の時間のせいに違いない。
 それを思い出したせいで、直樹はふと、別のことも思い出した。
 
「そういやお前、あれやめたの?」
「ん?あれって?」
「呼び方。入江くんはやめるって言ってたじゃん」
「あー…ああ」

 琴子の頬が、さっと赤く染まる。
 彼女の記憶に蘇るのは、露天風呂から宿のお部屋に戻って朝まで繰り広げられた甘い時間の中で、執拗な攻めを受けながら要求されたこと。
 もはや前後不覚に陥っていた琴子にとって、思い出すだけでも恥ずかしい記憶である。
 面白いほど視線が彷徨い、ややあって、直樹をおずおずと見上げた。

「やっぱ恥ずかしくって……ダメ?」
「そうなんだ。残念だなぁ。ああ、残念だ」

 わざとらしい棒読みだけれど、琴子には効果的だったようだ。 
 入江くん、と呟いて、直樹の右腕の袖を掴んでくる。
 申し訳ないと思っているであろう琴子を見下ろし、直樹は意地悪く笑った。

「ああ、それとも……夜だけにする?」
「!!!…し、しないもん!入江くんのえっち!!」
「そのえっちな男が好きなんだろ?ってことは、お前も――」
「あわわ、なしなし、今のなし!」

 琴子が慌てて直樹の口を押さえようともがくと、直樹はくっくっと喉を鳴らして笑った。
 からかわれたと気付いた琴子は、今度こそぷいっと窓の方を向いてしまう。
 直樹は琴子の柔らかい髪に触れ、それから、華奢な肩を抱き寄せた。
 二人の間にあったひじ掛けをどかし、琴子、と囁く。
 それは琴子が弱い声音で、琴子は反射的に直樹を振り返ってしまった。

「呼んでみ」
「……」
「ほら、琴子」

 促され、琴子は口を開きかける。けれど、すぐにまた閉じて。
 また開いて、閉じて―――それを何度か繰り返して、それからか細い声で

「……なおき」

 と言った。
 言うだけで恥ずかしいのか、琴子は耳まで赤くしている。
 昨日の夜だって、意地悪されてされて、その挙句にようやく口に出来たのだ。あの時は快感に酔えていたとしても、今のように何に酔うでもない時に平然と呼べる名前ではない。
 でも、琴子がそれだけ勇気を振り絞った甲斐あってか、直樹は名前で呼ばれることでもたらされる妙な感動と、どうしようもなく琴子が可愛く見えてしまう衝動に打ちのめされていた。
 自分で呼べと言ったくせに、口元を押さえて琴子を凝視している。

「い、入江くん?」
「…直樹」
「な………なおき、どうしたの?」

 何かマズイことをしてしまっただろうか?
 普段が普段なだけに、琴子は心配そうだ。僅かに俯いた直樹の顔を下から覗き込む。
 すると、そのまま唇を奪われた。

「…むっ」

 ぐ、という声は封じ込められた。
 いつもならバタバタと動いて抵抗を見せる細い腕も、バスの中では思うように動けないのか、それとも周囲のことを考えてかおとなしくしている。
 ちゅ、と僅かな音をさせて開放された時には、琴子はくったりとしていた。
 
「ご褒美」
「なっ……」
「ほら、寝てろ。着いたら起こしてやる」
「………」
「昨日あんまり寝てないだろ」

 こくりと頷き、琴子はそのまま目を閉じた。
 1人で慌てて、恥らって。馬鹿みたいじゃないの、という抗議をこめて、このまま膝枕で寝てやろうと思ったのだ。
 実際、直樹の言う通り昨晩はイロイロ……そう、文字通りイロイロあったので、確かに眠かったこともある。
 ほどなくして、安らかな寝息が聞こえてきた。
 直樹はそれまで窓の外を見ていて。
 視線を下げて琴子が眠ったことを見届けると、ようやくその口元に穏やかな笑みを浮かべた。


「馬鹿な奴…」

 さらり。
 直樹の大きな手で撫でられた琴子の髪が、柔らかく彼の膝に散った。
 


 バスが動き出す。
 着いたらどうやって起こしてやろうか。
 キスで?それとも、鼻でも摘むか?
 そんな他愛のないことを考える直樹は、周囲がぎょっとするほどご機嫌でバスに揺られるのだった。



 END






 何がしたかったって、入江くんに「ご褒美」って言わせたかっただけという(笑)
 ちなみに、これ周囲の座席に筒抜けです。第三者目線も書いてみたいような…見てみたい方いらしたら、拍手お願いします。たくさん拍手あったら書いてみようかな…なんて。
関連記事

総もくじ 3kaku_s_L.png 【バカップル】
もくじ   3kaku_s_L.png   バカップルライフ
*Edit ▽CO[0]
Tag List  [ * ]    

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
  • 【素直じゃない男 -後-】へ
  • 【バカップルのお勉強】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。