*初恋*

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 素直じゃない男 -前- バカップルの帰宅
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「二次創作」
前後編

素直じゃない男 -後-

 
 素直じゃない男 -前- バカップルの帰宅
後編いっきまーす。






素直じゃない男 -後-




 直樹と高倉は同じ科にいるだけあって、よく顔を合わせる。
 西垣が二人になったようなものなので、直樹にとっては頭痛の種でもあった。
 西垣と女性談義でも始めた日には、本気で頭痛薬でも飲もうかと思ったほどである。
 不特定多数の女性の可愛いところを見つけて、褒めて、それでどうするというのだろう。
 彼ら曰く、それが人間関係の潤滑油となるのだということだが、他にも潤滑油となりそうなものはいくらでもあるではないか。
 結局は単に彼らの実益も兼ねているのだろうとわかるだけに、そんなものを職場に持ち込むなという気分だった。
 今日も西垣と高倉は、カルテに向き合う直樹の後で、ソファーで休憩しながら話に花を咲かせている。

「こちらは素敵な看護師が多くていいですね」
「お、どちらの科がよかったですか?」
「うーん…やっぱり外科ですかね。ほら、琴子ちゃん。足も綺麗だし、後姿なんてけっこうグッときますよ」
「琴子ちゃんかぁ。高倉先生もけっこう見るとこ見てますねぇ」

(…こいつら、俺がここにいるってこと忘れてるだろ……)

 直樹の握るペンが、ミシッと音を立てる。
 
「ドジでそそっかしくて。けど、そこがまたいいんですよね。何も出来ない子ほど可愛いというか」
「ああ、わかりますね、それ」

 そんなの、ちっともわからない。直樹は苛立ちのあまり、いつもより力強くカルテに書き込みながらそう思う。
 琴子は何もできないんじゃない。直樹にできない10%を可能にしてしまう、とんでもないパワーと魅力を持った女だ。
 だからこそ惚れたし、いつまでも共にと願った。
 こいつらには何もわかっていないのだ。それは苛立ちでもあったし、琴子のことを自分だけがわかっているようで奇妙な優越感も感じられた。
 とりあえず目に付いた仕事を終え、直樹は勢いよく立ちあがる。
 西垣と高倉は、それで直樹の存在を思い出したらしい。揃って顔を引き攣らせている。
 じろりとそれを睨み、直樹は医局を後にした。









「ねー、琴子ちゃん」

 馴れ馴れしく肩を抱かれ、琴子はぺっとその手を払った。
 こういう態度は西垣で慣れているものの――別に慣れたくはなかったが――気分のいいものではない。
 回診車を押していた琴子は、再び歩き出した。

「あれ、今日はひっくり返さなかったんだ?」
「いつもいつも、そんなことしてるわけじゃありませんっ」

 ぷい、とそっぽを向き、琴子はナースステーションへと戻っていく。
 その後をついて歩きながら、高倉はふんふんと頷いていた。一体何を理解したというのだろう。
 
「僕思ったんだけどさ。琴子ちゃんのタイプからすると、けっこう家庭に入った方がうまくいきそうだよね。入江先生はそう言わない?」
「…え?」
「君のイイトコって、その明るさでしょ?そういうのは仕事で疲れて帰って来たときにほっとするかと思うんだよね」

 そうかー、入江先生は言わないのかー。
 高倉先生は何の気もなく言っている。それはわかる。男尊女卑とか難しいことではなく、単に彼の好みだと思われる。
 それでも、口出しされて気分のいいものじゃない。
 琴子はさすがにムッと口を尖らせ、じろっと高倉を睨んだ。
 プラスに考えれば、君は家庭に向いてるよ、という意味にも聞こえるから、言われて嬉しい女性もいるかもしれない。
 でも、琴子は嬉しくなかった。
 もし、直樹がそんなことを言う男だったら……琴子は確かにここにはいないだろう。けれど、直樹と今のような関係でいられたかどうかもわからない。
 お互いを高めあうような、そんな関係には。

「高倉先生」
 
 琴子は回診車を廊下の端に止め、真っ直ぐに高倉を見上げた。
 いつものように琴子が口を尖らせ、それを茶化して言い寄るつもりでいた高倉は、思ったよりも真摯な琴子の視線にどきっとする。
 高倉の中で、琴子は不器用で一生懸命さが売りの、入江直樹が大好きな女だった。それ以下ではないけれど、悪く言えば、決してそれ以上にはなり得ない女。
 少なくとも、こんな風な眼差しを持つとは思っていなかった。
 自分が茶化して終わろうと思ったのは、こんなことを言っても琴子なら笑って流すだろうという予測があったからだ。惚れた男についてくるだけの女なら、深く考えているわけがないという思い込みの元に。
 けれど琴子は、高倉の聞いたことのないような凛とした声で言った。

「あたし、そんな関係イヤです」

 小さな手が、ナース服の上から自分の胸を押さえる。
 今から言う言葉をまとめて、自分を落ち着かせるかのようだった。

「入江くんは厳しいけど、ちゃんとあたしのこと考えてくれてる。ただニコニコ笑ってるだけのあたしなんて、きっと入江くんは求めてないんです。あたしと入江くんは、一緒に歩いていきたいから結婚したんだもの。だから、入江くんはあたしのこと甘やかさないんですけど、あたしもそれでいいんです…負けそうになることもあるけど。でも、そしたら入江くんが支えてくれるから」

 突き放すだけじゃない。琴子を信じて、立ち上がるのを待っていてくれる。
 だから琴子は頑張れるし、実際そうして二人で歩いてきた。
 琴子は一つ息をつくと、小首を傾げて高倉を見た。その視線に迷いはない。

「この間誘っていただいた食事、あたし、やっぱり遠慮しておきます。ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げ、琴子は再び回診車を押して歩き出した。
 何故だか。
 高倉はその後姿をカッコいい、と思った。
 そして同時に。

「…負けたなぁ」

 どこか嬉しそうにそう呟いたのだった。
 彼が女のことで見誤ったのは、後にも先にもこの一度きり――。







 たまたま日勤だった琴子と直樹は、これまたたまたま、ロッカールームを出たところで顔を合わせた。
 数日前のやり取り以降、どこかぎこちない日々を過ごしていた琴子は、至って普段と変わりなく自分を見下ろす直樹を盗み見た。
 顔や身のこなしももちろん素敵だけれど、やっぱり、一番素敵なのは彼の中身だと思う。
 
「――なんだよ」
「えっ」

 ぎくり、と面白いほど体を固くし、琴子は慌てて視線をそらした。
 たいして重そうではない小ぶりなカバンを抱え、おどおどと周囲を見回している。だが残念なことに廊下には2人以外誰もおらず、また通りかかりそうもなかった。
 何とも気まずくて、琴子は呻く。
 そんな、明らかに不審な琴子を横目で見やり、直樹はため息をついた。

「お前、高倉先生と食事行くの?」
「……そういう予定」
「ふーん。行くんだ?」

 心なしか、直樹の声が冷たい。
 琴子は自分を励ますように右手を握ると、カバンを持ち直した。動揺していると思われたくなかった。
 ぎゅ、と目を閉じて、琴子は考える。言うか、言うまいか…。
 高倉が連れて行ってくれると言ったのだから、きっと、琴子が常に妄想するような素敵なレストランで、素敵なご馳走が出てきたに違いない。
 でも、それは―――直樹と行きたい場所だ。
 琴子が恋するのは、いつだって直樹だけなのだから。
 琴子は深呼吸をしてからゆっくりを目を開け、じっと自分を見下ろす直樹を見上げた。
 そうして、意を決して口を開く。

「…だったけど、断ったの!だ、だって、あたしには――…」

 ふわり、と抱き寄せられた。
 気付けば琴子は直樹の腕の中で、白衣を脱いだシャツに顔を埋めている。
 これが夢でないことを確かめるように、琴子は目の前のシャツを握った。
 

「…行くなって言ってくれなかったのに」
「ばーか」
「ふぇっ…」

 琴子の目が潤む。馬鹿にされたせいではなく、直樹の気持ちが嬉しかった。
 
「自分の奥さんが他の男と出かけるなんて、いいわけないだろ」
「んっ…」

 奪うようなキス。
 琴子の細い腕を取り自身の首に巻きつかせると、直樹は琴子を通路の壁に押し付けた。
 咥内を犯すように舌をねじ込み、逃げ惑う小さな舌を吸い上げる。苦しげに琴子が呻いたが、直樹はキスをやめなかった。
 誰かに見られるかもしれない、ということはこの際頭から追い出す。
 見たい奴は見ればいい。噂したければすればいい。自分達は夫婦で、高倉であろうと誰であろうと邪魔なんてできないんだと言われるのなら、むしろありがたいくらいだ。
 相変わらず、変なところでオープンな直樹だった。



 次第に琴子の体から力が抜け、くったりと直樹に体を預けてくる。 

「いりえくぅん…」

 こういう時だけ聞ける、この鼻にかかった甘えた声が直樹は好きだった。
 自分しか知らないという満足感と、こんな風にしたのは自分だという征服感。

「俺がどれだけお前のこと好きか、ちゃんと教えてやるよ」

 最後に柔らかい耳朶を軽く食み、直樹は艶然とした笑みを浮かべた。
 素直じゃない男の、素直じゃない告白だった。
 考えてみれば、この意地悪な男が素直にヤキモチを焼くはずがないのだ。むしろ――。

「それから、他の男と出かけようとした罰…な?」
「……っ」

 ちゅう、ときつく首筋を吸われる。
 それはまるで、今夜帰ってからの甘い責め苦を予測させるもので。
 折角明日が、珍しく二人揃っての休日なのに大半を寝て過ごすハメになりそうだ、と思わせるには十分だった。









 END






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~ Comment ~

琴子ちゃんの名台詞 

今晩は~♪ また読み返しの旅に来ております~♡
琴子ちゃんから高倉先生への啖呵は名台詞ですよね。
入江君の厳しさは琴子への愛情が籠ってることを、ちゃんと琴子は分かってる。
そしてただ甘えるだけじゃなくて、直樹の横でしっかり前向いて一緒に歩いて行ける女性だから、琴子を直樹が選んだんだ、って凄く良くわかりました。対等でないようにみえて、この2人はちゃんと互いを支え合ってるパートナーなんですね。
miyacoさんの作品は何度でも読み返したくなって、いつもわくわく楽しいです。有難うございました。

>hiromin様 

古い作品にも目を通していただけるなんて(しかも読み返しで!)嬉しいです~(^^)ありがとうございます!
甘々でべたべたな二人も大好きですが、こう、入江くんと琴子がそれだけじゃないんだよっていう姿が見られるのも好きなもので……で、この頃はまだ真面目に(笑)書いていた頃でした。今は?って聞かれると冷や汗ものなのですが(^^;
何度も見ていただけることも、書いた私にとってはとても幸せなことです。
それでhiromin様がまた元気になってくれたら、もっと嬉しくて。こちらこそ、ありがとうございました(^^)
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